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特集

奥志賀高原でしか味わえない自然がある

杉山スキー&スノーボードスクール所属
日本山岳ガイド協会専務理事

畠山 浩一Koichi Hatakeyama

清らかな水が楽しさをくれる奥志賀渓谷

奥志賀には雑魚川という川が流れています。非常にピュアな川で、イワナの原種がたくさん生息している日本では数少ない河川の一つです。一番高い岩菅山を最上流に、志賀高原の中心のところから水が流れ始め、下流の秋山郷という場所でもう一つの魚野川と合流し、最終的には信濃川になっていく川です。川が素晴らしいということは森が豊かであるということにつながり、一年中、安定して一定の水量を保った素晴らしい川です。秋の台風や春先の雪解けが激しい時などは一瞬濁ったりしますが、それ以外はめったに濁ることもありません。
奥志賀もそうですが、上流には巨大リゾートが存在します。使用した水が何らかの形で川に流れ込みますが、先人たちの崇高な理念と大変な苦労のもと、非常に高いレベルの汚染処理がなされています。市街地のレベルとは比べ物にならないくらの浄化が施されていますが、そうした努力があったということは、歴史の中ではあまり触れられていないために誰も気づくことなく過ごしてしまいます。私たち利用者の立場で言うと、奥志賀にこれほど素晴らしい宿泊施設があり、街と変わらぬサービスを享受できるのはたくさんの水を使っているからです。使用した水が非常に高いレベルの汚水処理によって浄化されていることは、奥志賀高原の自然との共存を語る上で見過ごせない部分だと思います。
川の特徴としては、奥志賀から流れ出て川幅が急に狭くなって両側が迫ってきます。雑魚川の中心部に入ってくると大きな滝が出てきたり、岩盤が露出する部分が現れます。その岩盤はグリーンターフという日本の河川ではよく見られる緑色凝灰岩で、一枚の岩盤の上を流れていく特徴的な景観を醸し出しています。非常にダイナミックかつ美しさが実感できる川だと思います。この川沿いには林道や奥志賀の人たちが中心となって整備した遊歩道があり、奥志賀に滞在しながら1日、あるいは半日かけてトレッキングを楽しみたい、川の綺麗さに触れたいといった際に足もとを確保してくれる非常にありがたい存在となっています。

動物も人間も奥志賀の自然の恩恵に

山に流れる川、沢は地形を侵食します。日本は降水量が多い上に、このあたりでは積雪もあるため、豊富な水が山肌の弱い部分を少しずつ削りながら現在のような姿を形づくりました。調べてみると、志賀高原、上信越高原国立公園のような火山帯で山ができた所で川が流れているのは、溶岩と溶岩の地質の異なる所だということがわかります。片方の山が噴火した年代と、もう一方の山が噴火した年代が異なっており、山と山の継ぎ目はどうしても弱いため、そこを侵食していくケースが多いと考えられます。
スキー場のある奥志賀側は焼額山という山の山麓にあります。焼額山はだいたい50万年前ぐらいから噴火活動をおこし現在の山体を作りました。川を挟んで岩菅の峰の方は、それよりも遥かに古い火山活動の時にできた山で、表面上は同じ様な植生に覆われていますが、地質で言うと山の成り立ちが異なります。川の流れを見てみると、その地質の違いの境目を縫うようにして雑魚川が流れています。特に山が近くなっている所は、深いV字谷を作っています。奥志賀側が少し平らに見えるのは、焼額山の噴火よりかなり後になってからできたからです。この下に小さな山、丸山という場所があり、かつて噴火活動によって雑魚川を堰き止めた時代がありました。いま、私たちがスキー場として使っているエリアから上流部分にある焼額山スキー場がある一帯は、一度大きな湖になったことがあり、湖成層という地質で湖の底だった時代があります。V字谷というよりは両側が開けて平らになった地形がありますが、丸山の下流部分というのはいわゆるV字谷で、川の両側を見ても絶壁と絶壁があるような特徴的な姿をしています。滝も何段もあり、奥志賀周辺ではあまり見ないような大きな岩がゴロゴロしています。変化にとんだダイナミックな景観と清涼感を存分に味わうことができ、トレッキングを楽しむには絶好のポイントとなっています。

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